【感想】島本理生「ファーストラヴ」直木賞受賞作の名は伊達じゃない!私たちには意思と権利がありそれを声にする・・・




こんばんは。朝木です。今回は島本理生先生の

「ファーストラヴ」

読了いたしました。

あらすじ

「動機はそちらで見つけてください」父親を刺殺した容疑で逮捕された女子大生・聖山環奈の挑発的な台詞が世間をにぎわせていた。臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環奈やその周辺の人々と面会を重ねていくが……。

帯より抜粋

感想

父親を刺殺した女子大生の真実を巡る物語。環奈の人間性、作品の醍醐味でもある実の父親を殺した理由、由紀と迦葉の関係など、冒頭から気になる要素が多く、文章一つ一つを丁寧に拾い上げ咀嚼し、読み進めていました。

子供の人格形成

本書を読み進めていく中で強く感じたことがあります。それは家庭環境が子供の成長段階における人格形成に多大な影響を与えるという事実。「普通の一般家庭と同じように育てた」と言うのであれば普通とは一体何を指すのだろうか。本書のように親の真意と子供の解釈の仕方というのは乖離している場合もあるということを私たちは忘れてはならない。

例えば親の望む答えを出すために、自分の心に嘘をつき続ける・・・結果として親の目からみれば素直な良い子に見えるだろう、しかし子供からしてみれば、このやり方を貫くことは徐々に自らの心を崩壊へと導いていくのだ。そして心の堰が崩れた時、取り返しのつかない状況へ一変してしまうのである。

中でも目立つ事柄が虐待ですね。直接な暴力然り言葉の暴力もそうですが性的虐待など、度が過ぎるとトラウマを刻むということを私たちは胸に秘めておかなければなりません。そのトラウマとは抱いた人の人生そのものを変化させてしまうほど、酷く強固な力を持っています。何気なくついた陰口一つを取っても、受け手にしてみれば心を抉るほどの力を秘めていることだってあるのです。

「心が死んでいた」まるで彼女は人形のようだった。自身の気持ちを殺し相手の意に沿う形で、自分の心に蓋を被せそれが本心かのように振舞ってきた彼女。果たして本当にこれで生きていたと言えるのでしょうか。彼女に人間らしさを感じる部分があったのでしょうか。これもある意味教育の暗部を最大限に描いていたと感じました。洗脳とでも言うのでしょうか。環奈自身が異常なのか、はたまた環奈を取り巻く環境が異常だったのか、物語を体験すれば自ずと答えは見えてきます。

理解者の存在

傷ついた心を癒すもの、それは「理解者の存在」に他ならない。そして自身を必要と言ってくれる、誰かのなくてはならない存在としていられることに、私たちは安心感を覚えるのです。同じ境遇を経て、同じ心の傷を共有し合えることは、灰色の世界に射す一筋の光そのもの。その点、秘密の共有とは上手に人の心理を抑えていますよね。君だから君にしか話さないけど・・・などと言われれば、私は相手にとって必要な存在なのだと思い込んでしまうものです。

人の本音を聞き出すことの難しさ。ただ一方的に質問責めするだけでは、心を開き真実を語ってもらうことは出来ないでしょう。一歩ずつ心に寄り添い理解者となり相手の気持ちを汲み取らなければなりません。これを実践するとなると高度なスキルを要されます。その部分で人の心理を理解し、真実を引き出すことへの駆け引きとも言えるやりとりを描いたシーンは、臨場感や緊迫感がひしひしと伝わってきました。

人生は成功と失敗の繰り返し

人は何度だって人生をやり直せる。これは詭弁でも欺瞞でもなく、事実だと私は思います。しかしただやり直しても意味はありませんよね。何が原因でこうなってしまったのか、とことん追求しなければなりません。それは自身の力だけでは無理かもしれない。であれば自身の信頼できる人物や専門の人を頼るのも一つの手です。そうやって原因を解明した上で、自身への理解を深めることが大切で成長へとつながるのです。失敗の大小関わらずこれを繰り返すことで、一歩また一歩と歩幅は小さくとも、きっと大きな成長に繋がると私は思います。

本当の思いを声に出すこと

裁判所で繰り広げられる怒涛の展開。まさに息を飲むほど圧巻で、ページを捲る手が止められませんでした。環奈の語る言葉一つ一つが残酷さを帯びており、私の胸に容赦なく突き刺さる。それに伴いそのような環境を作り上げた人物に対して、憎悪の念や怒りの感情が沸々と湧き上がってきました。彼女の生きてきた環境がどれだけ壮絶なものだったのか。裁判所での描写を通すことで、違和感なく自身の中に落とし込むことが出来ました。今置かれている環境が普通だと思うこと」この恐ろしさや危うさに私たちは気がつかなければなりません。私にとっての普通は周囲の人達にとっての異常であることもあり得るのだ。客観的に見つめることの重要性を、本書を通して学ぶことが出来ました。

最後に

暴力の種類は多々ありますが、本書で掲げられたテーマ性に関して、非常に残酷で目を背けたくなるような環境でした。しかしこのような環境も案外身近に存在しているかもしれない、そうであれば私に一体何ができるのだろうか・・・。ということを同時に考えさせてくれました。このような環境の存在をより多くの人に知ってもらう、というのも一つの関わり方ですよね。読後は「誰かに伝えなければ」この衝動に駆られたことを今でも明確に記憶しています。それほどまでに本書が私に与えた「贈り物」は価値のあるものでした。




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