【感想】辻村深月「ハケンアニメ!」アニメ好きなら一度は目を通すべき一冊!




こんばんは。朝木です。今回は前回告知していた辻村深月先生の

「ハケンアニメ!」

こちらを紹介していきたいと思います。

あらすじ

1クールごとに組む相手を変え、新タイトルに挑むアニメ制作の現場は、新たな季節を迎えた。伝説の天才アニメ監督・王子千晴を口説いたプロデューサー・有科香屋子は、早くも面倒を抱えている。同クールには気鋭の監督・斎藤瞳と敏腕プロデューサー・行城理が手掛ける話題作もオンエアされる。ファンの心を掴むのはどの作品か。声優、アニメーターから物語の舞台まで巻き込んで、熱いドラマが舞台裏でも繰り広げられる。

裏表紙より抜粋

感想

お仕事シリーズは本当に良い。何度胸を熱くさせられたことか。「ハケンアニメ!」は特に「好き」「仕事」をかけ合わせた最高のお仕事小説でした。好きだからこそこの業界に入り、好きだからこそ誰も負けない愛を仕事にそそぐ。しかしそこでは我々の知るはずのない過酷な現実と、それを乗り越えた時の例えようのない感動が待ち受けていました。そして本書はいい意味で人間味のある登場人物が多く、妙に親近感の湧く作品でした。特に誰かに向けられる憎悪の部分。ここに現実世界を必死に生きている人間の姿が、忠実に表現されていたと思います。本書の本篇は4章から成り立っており、1章ごとに感想を述べていきたいと思います。

王子と猛獣使い

王子千晴の名前を世界に轟かせた「ヨスガ」の最終話では、アニメ業界に生きる人のクリエイターとしての信念を強く感じました。「殺らせてもらえなかった。」この言葉の背景には業界ならではの理由が隠されていたのでしょう。作品に登場するヒロインの1人を殺してしまえばファンから総スカンを食らいグッズが売れなくなり制作費が回収できなくなる。もちろん放送時間の倫理観の問題だってありました。だからこそ王子千晴が本来叶えたかった結末を迎えることができなかった。作品自体は完成したが、王子千晴の中では永遠に未完であり失敗作なのだと。非常に勿体無い話ですよね。稀代の天才と謳われた作家が本来の力を発揮できないなんて。そう言った柵から本来あるべき結末が歪んでしまうのはあってはならないことなのだと、だからこそアニメを深夜枠に移したのも正解なのでしょう。

そしてアニメーション監督という立場。監督が0から1からを生まなければ、何人ものスタッフの首を絞めることにつながる。この部分には衝撃を隠しきれませんでした。何故今まで自分で気づかなかったのだろう。スタッフの人生を背負って作品に向き合うプレッシャーとは一体どのようなものなのか。そのプレッシャーの中で作品を創り出さなければならないことは、限られた人間でないと身がもたないでしょう。まさに自分の仕事にプライドを持ち、誰にも負けない愛を持っている人でなければ。

女王様と風見鶏

今回の「サバク」の話では、前の章で登場した斎藤瞳監督に焦点が当てられて物語が展開されており、特に業界内に置けるドロドロとした人間関係が目立ちました。監督という立場から見えてくる声優やプロデューサーとの関係、一筋縄ではいかない様々な思いが交錯した状況。しかし一緒に仕事をしている人たちとの根底にある思いは同じ。「最高の作品を自分の手で創り上げたい。」みんな等しく「サバク」に熱い想いを馳せて一生懸命仕事に取り組んでいる。ならば後はその人たちのことを理解するだけではないのでしょうか。何が好きで何が嫌いで、この業界で言えばどのような作品が好きでどれだけアニメが好きなのか。本書の言葉を借りるのであれば、「繊細さに欠ける世界で、だからこそそれを理解する人に出会えた時の喜びは大きい。」本章のヒューマンドラマはアニメ業界の垣根を超え、我々の世界にも通ずる大切な事を教えてくれた気がします。「作品と現実の空気が合致した時に、神アニメが生まれる。」この言葉を目にした途端、「ああ、そういう事だったのか。」と納得してしまいました。全身から力が抜けるような感覚と、けれど確かな熱を自身の体に宿して。実際アニメにしても小説にしてもそう感じることが少なからずありますね。その上この感覚を言葉にすることが非常に難しい。きっと感じた者にしか理解できない何かがあるのでしょう。

軍隊アリと公務員

本章は聖地巡礼についての物語。本書にもあったように「市の観光課の人達は何をすればファンが喜ぶかわかっていない」とありました。やはりここが1番重要なのでしょうね。アニメを好きでもない人間が地域とアニメをタイアップして町おこしと言っても、結局は一過性のイベントにしかならないでしょう。「何をすればファンが喜ぶ」か、それはきっと自分がアニメファンでないと絶対にわからないことであり、答えが出たとしてもきっと理解は出来ないでしょう。しかし後半部分にかけて、宗森の地域に対する想いには胸を打たれるものがありました。自分の愛する地域を舞台にしてもらって、その上アニメでは鮮明という言葉だけでは語ることができないほど美しく風景が描写されていたこと。そのようなアニメを好きになれないはずがない。自分の大好きが詰まった作品を。そして和奈と宗森がお互いの立場を真に理解した時、聖地巡礼のプロジェクトは漸くレールの上を走行し始める。

そして私が本書で1番感動した部分、それが斎藤監督と和奈の電話でのやりとりです。ここに2人のアニメ愛が集約していたようにも感じられました。「ボランティアでもいいから私が書きたい」と願う和奈に対して、「あなたの絵の価値を貶めるようなことは、絶対に口にしないでください」と叱咤する斎藤監督。ここで改めて神原画と謳われたアニメーターの価値に、否、崇高さに感極まって涙しました。監督だからその作品の全てを担っているのではない、多種多様な業務をこなす人たちの協力があってこそアニメが完成するのだと実感しました。

「みんなとの思いを共有」アニメ聖地に集う人達、それからアニメ関係者にはこれがある。これがあるからこそアニメ聖地巡礼はやめられない。「繊細さに欠ける世界だからこそ、同じものを愛する人に出会った時の感動が大きい。」形だけでなくみんなの思いがあってこそアニメ聖地は巡礼されるのだと、その名にふさわしい行動になるのだと感じました。

この世はサーカス

本書のタイトルにもあるように「今期アニメの覇権」を握ることが、現代のアニメ業界における1つの目標となっています。アニメ視聴者がどれだけグッズや円盤を購入しお金の流れを産むか。私自身本書を読むまでは売り上げの数値だけがすべてだと思っていましたが、どうやら違ったようです。「視聴者にとってどのアニメが一番多く印象深く残ったか」こちらも大切ですよね。時間が経ってふとした瞬間にアニメのことを思い出して、「そういえばこのアニメを見て〇〇を始めたんだよな」とか「また観たいな、今度聖地に足を運んでみようかな」なんて思ってくれることがあれば、製作者側としても嬉しいのではないでしょうか。誰かの人生に大きなインパクトを与えその人の励みになってくれるような作品が多く生まれることを私は望みます。

最後に

各章に分けて感想を述べましたが今ここで簡潔に私が言いたかったことを言います。「アニメが好きならつべこべ言わず1度読んでみるべきだ。きっとアニメを見る目が良い意味で広がり深くなる。」アニメが好きならアニメを作る側の事情も知っておくべきだと私は思います。

そして何かを通じて得たことに正解なんてありません。アニメの受け取り方が人によって違うのも当たり前、それを非難することは果たして許されるものなのでしょうか。私自身アニメを見て大きな衝撃を受けた人間の1人です。「アニメの世界で描かれるすべてが儚くて、手が届かなくて、最高に愛おしい。だからアニメはやめられないのだ。」




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