【感想】森見登美彦「恋文の技術」手紙大好き青年の純情爆裂。偏屈作家が言葉で魅せる。




おはようございます。朝木です。今回は森見登美彦先生の

「恋文の技術」

読了いたしました。

あらすじ

京都の大学院から、遠く離れた実験所に飛ばされた男が一人。無聊を慰めるべく、文通修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。文中で友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れるが、本当の想いを届けたい相手への手紙は、いつまでも書けずにいるのだった。

裏表紙より抜粋

感想

長くなってしまった・・・。これも作品への愛、基森見先生への間と思っていただきたい。

外堀を埋める友へ

作家は小説を綴る際、登場人物になりきなければならないと言うが、これは最早その域を飛び出し森見先生の生き写しではないのだろうか。実際私は森見先生にお会いしたこともないし性格も知らない。だからこそこのような人物を思い描いてしまう、これは仕方のないことであり必然であろう・・・。

そんな独特な雰囲気を持った守田君が友の恋路について手紙で相談に乗るわけだが、これまた事の顛末が非常に愉快で腹筋がシックスパックに割れてしまうほど笑ってしまった。ネタバレは避けたいので詳細は述べないが「何故そうなるのだ。君はどのような魔法を使ったのだ?」と内心問いかけてしまうほど、思いもよらない着地点を迎える。兎にも角にも阿呆や変人は本当に面白い。私もある部分では彼等に習いたいとちょっぴり思ったり。

私史上最高厄介なお姉様へ

大塚姉様は融通無碍という言葉をそのまま具現化したような人物に思えますね。手紙から伺える彼女の自由っぷりはカリブの海賊にも匹敵するだろう。他人の人生を掻き乱すことを彼女は興とし、その被害者の一人であるチェリーボーイ守田君はピュアな恋心を痛めることとなる。「青年よ。クラゲよりももっと人間を研究した方がいいのではないだろうか。」と何度も声をかけたくなりましたね。

見どころのある少年へ

少年は恋をして大人へ一歩近づいた。守田君に見どころがあると言われるくらいなのだから、将来彼は有望な阿呆であり変態になるのだろう。そんな彼が抱く思いは果たして恋心なのだろうか、女性の胸に対する憧れなのだろうか、恐らくどちらの意味合いも含んでいたのでしょう。男はみんなそんなものです、隠していても女性は皆知っています。「胸じゃなくて私を見ろ」と言われた男性も少なくないのではないでしょうか。そんな少年の将来が非常に楽しみですね。

偏屈作家・森見登美彦先生へ

まさか著者本人が登場するとは驚きを禁じ得ない。森見先生は自身の人間性をどのように知ったのだろうか。鏡を見ても映るのは何の変哲も無い顔面表皮のみ。そこから一体何を感じ取れと言うのだ、未来への失望と遺伝子への怒りしか湧いてこないであろう。すいません話が逸れましたね。そんなこんなで守田君と森見先生が文通でやり取りをしている、ただそれだけで読む価値があるように思えてくるのが不思議でたまりません。偏屈と偏屈が混ざり合うことで何が生まれるのか、一読を強くお勧めします。

女性のおっぱいに目のない友へ

徹底的な懐疑を通じて確実な心理に迫ろうとする、デカルトはこの手法で答えを手に入れたのであろう。しかし守田君や小松崎君を含む我々は凡人なのである。凡人が果たして高貴で美しく見るものを魅了してやまない、絶対的存在に打ち勝つことができるのであろうか。断じて否である。我々は眼前に迫る二つのたわわに実った果実を目の前に、煩悩を捨て去ることなど不可能なのである。万歳。

続・私史上最高厄介なお姉様へ

ここへ来て大塚姉様の史上最高厄介っぷりを目の当たりにしました。守田君の何枚も上手をいく大塚さんはまさに傍若無人の権化であり、人を弄ぶ天才と言っても過言ではないでしょう。そして守田君の置かれた状況。四面楚歌であり最大の敵は味方にいるのだった・・・。史上に名を残す関ヶ原の戦いを思い出しました。人心掌握こそ最大の武器だということを二人を通して再認識しました。

恋文反面教師・森見登美彦先生へ

全ては森見登美彦先生の黒髪好きが生んだ事件だったようですね。彼が黒髪乙女を研究室に連れてこなければ、守田君は人生最大の汚点を作ることはなかった。しかしまあ読み進めていくうちに守田君の恋路に希望の光が射してきたようにも思えます。悪の権化が天使となるのかどうかは、最後まで読み進めないとわからないでしょう。しかし御都合主義万歳の森見先生なら、きっと私の望む結末を描いてくれるはず。そう信じています。もう一度。そう信じています。

我が心やさしき妹へ

守田君よ。男に対する偏見が酷すぎるじゃないか。十中八九当たっているのだけど、断固として認めたくない。だが男というものはそういう生き物だから諦める他ないのだ。この命題について語る時間は、唾棄すべき時間でありもっと有効に使える手立てがあるはずだ。男は皆阿呆であり変態なのである。

それにしても愉快な兄妹ですね。宇宙的規模の兄妹を目指すあたり、両者とも只者ではない空気を醸し出しています。たまには家族宛に手紙を出すのも良いものだなあ。と感じたりもしましたが恥ずかしいのでこの先も長らく綴ったりはしないでしょう。

伊吹夏子さんへ失敗書簡集

本当に彼は愉快である。一人の人間のはずが恋文を読む限り、多重人格のようにも思えてくる。これがまた彼の個性でもあり手紙の魅力でもあるのだろう。本当に読者を笑わせてくれる、楽しい作品である。言葉の使い方次第でその人の魅力もまた変わってくるのだと強く感じました。

続・見どころのある少年へ

少年は一つの季節を過ぎてまた一歩大人への階段を登るのだ。少し悲しい気持ちになりました。しかしある意味リアリティに溢れており、御都合主義を放棄した森見先生もいい味が出るのだと感心しましたね。失恋から彼は何を学んだのか。好きという思いを打ち明けるには、想像できない程勇気を絞り出さなければならないもの。そしてその結果何を得何を失うのか。そこまで計算できて漸く一歩踏み出せるものだと思います。勝算や根拠のない勇気だけでは、悲しみが残るだけ。でもまたその悲しみが大人への階段を一歩、また一歩と歩ませることになるのですね。

大文字山への招待状

守田君にしてやられました。彼ならきっと「恋文代筆ベンチャー企業」を興せるでしょう。その道のパイオニアとなり阿保を極め、その独特の波長で友を仲間を呼び、世界を文で籠絡するであろう。風船から始まる文。なんとロマンチックなことを考えるのだ。手紙を書きたくなる、そして風船も真似したくなる。本書には我々に非常に大きな衝撃を与えてくれる。そして私もいつかは文の技術を身につけ、勝手に代筆してやろうなんて悪知恵を働かせたりしています。

伊吹夏子さんへの手紙

伝えたいことのたくさん詰まった手紙は、温もりに包まれていました。その中でも特に目を引いた部分、それが彼の文通を始めた理由、そして文通を続ける理由です。少年だった彼が好奇心から手紙を風船に括り付け大空へ飛ばしたようです。そこから始まる文通、そして魅力的な雰囲気を醸し出す文通相手に、彼は恋に落ちたのだ。手紙を書いている時、ポストに投函する時、返事を心待ちにしている時、家のポストを確認する時、返事の封を開ける時、そして返事を読んでいる時、この一つ一つの瞬間のドキドキやワクワクと言った気持ちの昂りに、激しく共感しました。それと同時に幼少期の淡い記憶も脳裏に浮かび上がってきました。手紙を書くのに特別な理由はいらない。書きたいときに書けば良いのだ、さすれば自然と世界は平和に向かっていくだろう。大袈裟に聞こえるが案外的を射ていると思うのは私だけだろうか。

最後に

終始笑いっぱなしの作品でした。手紙の持つ純粋な魅力、それは守田君が幼少期に抱いたあの胸の高鳴りに他ならないでしょう。「意外に実用的です」この謳い文句がマッチしすぎて、もう私の純情も爆ぜました。手紙が伝えてくれる大切な思い。あなたも恋文の技術、身につけてみませんか。




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