【感想】冲方丁「マルドゥック・スクランブル 圧縮」絶望の淵にいた彼女はそれでも生きることを選ぶ・・・




こんばんは。朝木です。今回は冲方丁先生の

「マルドゥック・スクランブル 圧縮」

読了いたしました。

あらすじ

なぜ私なの?賭博師シェルの奸計により少女娼婦バロットは爆炎にのまれた。瀕死の彼女を救ったのは、委任事件担当官にして万能兵器のネズミ、ウフコックだった。法的に禁止された科学技術の使用が許可されるスクランブルー09。この緊急法令で蘇ったバロットはシェルの犯罪を追うが、そこに敵の担当官ボイルドが立ち塞がる。それはかつてウフコックを濫用し、殺戮の限りを尽くした男だった。代表作の完全改稿版、始動

裏表紙より抜粋

感想

主人公の成長を軸に、様々なことを教えてくれる内容でした。特に私が感銘を受けたのが「生への執着」。生きる理由も希望もなくした彼女が、死を乗り越えて生きたいと願うようになる。この相反する感情の転換が、違和感一つなく私の心に届き、大きく気持ちを揺るがしたのだ。愛を知り感情を取り戻していく言わば再生の物語。壮絶な過去を経てもなお過酷な未来受け入れ、自らの手で切り開いていく勇敢な姿に目が離せませんでした。

特徴的な登場人物

登場人物も多種多様で愉快な仲間たちに極悪非道な適役はもちろんのこと、異常とも言える性癖の持ち主も多々存在し、作者のストレートかつグロテスクな表現がより一層狂気さを醸し出していました。常軌を逸脱した人間ほど壮絶な過去を持ち合わせているものだ。敵役である畜産業者の邂逅、そして彼らの壮絶な人生を目にしたとき、少なからず同情した私がいました。彼らにとっては生きるために必要だった。たったそれだけのことなのにやり方を少し間違えただけで人生がこうも大きく変化するのだ。

アクション映画さながらの戦闘シーン

本書で特に目が離せないのが、バロットとウフコックの繰り広げる戦闘シーン。SF好きとしてはたまらない場面になるだろう。バロットの望むがままに変幻自在に姿を変えるウフコック、どんな相手をも凌駕する主人バロット。その圧倒的な姿から伺える戦闘シーンは、アクション映画を巨大シアターで豪快な音とともに鑑賞しているような感覚に陥る。それも冲方丁先生の表現力があってのものだ。しかしそんな主人であるバロットも、他社を圧倒する快楽には勝てなかった。自身を蹂躙し続けていた敵と同様な気持ちを知り、同じ状況に陥りその気持ちに抗うことができなかったのだ。そして他者を蹂躙する快楽に陶酔しきった彼女は、ウフコックを濫用し苦しめてしまったのだ。ここで彼女が愛する者を傷つけたことで自身の胸を痛めるのだが、このシーンが本当に切ないのだ。決して愛されることの無かった彼女が、初めて他者に愛されその愛に傷つく。彼女が感情を取り戻した瞬間だったのだ。

戦争の背景

戦後の政治的理由。戦争を起こした人が悪いのか、はたまた存在する武器が悪いのか。ここで人を肯定する結果になるなど愚の骨頂に等しい。結局のところ武器を生み出したのは人なのだ。戦争を有利に進めるために非道な武器を開発し利用した。その事実を持ってしても人を肯定するのであれば、我々は自身に存在意義すら問わなければならないだろう。それ程までに呆れた話なのだと私は思う。しかし戦後に戦争中に生まれた技術や道具を規制したところで、再度持ち出し発明するのが我々人では無いのだろうか。どこまでも私たちは私たちに甘い。人の利己的な部分を目にして少し気分が悪くなった。しかし決して目をそらしてはならない問題だろう。私たち一人一人が問題意識を持ち向き合わなければならない。

最後に

このような起承転結を迎える中で、物語の構成という部分に純粋な面白さを感じることができた。生きることに絶望し死を迎えた一人の少女が、生きることに執着し、世界をも揺るがす新たな力を手に入れ、その力に支配され大切なものを失う。この過程の中で彼女の心がどのように変化していくのか。この部分は特に読み応えがあると言える。この先彼女は失ったものを取り戻すことができるのか。非常に楽しみな部分である。




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