【感想】冲方丁「マルドゥック・スクランブル 排気」今もなお進化し続けるサイバーパンクの金字塔




こんばんは。朝木です。冲方丁先生の

「マルドゥック・スクランブル」

読了いたしました。

あらすじ

それでも、この世界で生きる――バロットは壮絶な戦いを経て、科学技術発祥の地”楽園”を訪れ、シェルの犯罪を裏付けるデータがカジノに保管された4つの100万ドルチップ内にあることを知る。チップを合法的に入手すべく、ポーカー、ルーレットを制してゆくバロット。ウフコックの奪還を渇望するボイルドという虚無が迫るなか、彼女は自らの存在証明をかけて、最後の勝負ブラックジャックに挑む。喪失と再生の物語完結篇。

裏表紙より抜粋

感想

本書も臨場感溢れる熱戦に目が釘付けとなりました。その状況下でバロットは成長を止めることなく、昇華し続ける。未知を恐れるのではなく、知ることでそれを逆手に取り自らの盤上へと相手を引きずり込む。その姿に敵であるはず刺客たちも、彼女の可能性に未来を託してしまうほど・・・。そんな彼女の姿は私に非常に多くの勇気をくれました。

アシュレイという人物

引いても引いても引き分けになるブラックジャック?アシュレイの登場により、私さえも戦慄してしまった。その場で一体何が起こっているのか理解できないのだ。まさにアシュレイとバロット達が繰り広げる戦いは、終わりの見えない砂漠をただひたすら歩き続け、虚無を目指しているかのようだった。まさにゲームと人間の心理を知り尽くした人物。もはや彼とのゲームは、彼の盤上であり彼こそがゲームの神であり、挑戦者はコマの一つに過ぎないのだ。

バロットの決意

そんな彼とのゲームの中で、バロットは本当の意味で自身の力で戦うことを決意する。ウフコックとコンビを組むことで、どんな修羅場をも潜り抜けてきた彼女。そんな彼女はこれまでの戦いの中でどのような変化を遂げたのか。またどれだけの進化を果たしたのか。この決意に現れていたようにも思えます。しかし手放したからと言って、完全に一人になったわけではないのだ。一人で戦う決意をしたが、心の中にはドクターがいてもちろんウフコックも存在する。彼らの顔を思い出すことが何かのヒントに繋がり、そしてまた勇気をくれるのだ。

完成された物語

物語の構成に何一つとして文句が出てこない。社会問題をテーマとして扱いつつ、読者が世界観を楽しみながら物語を体験するという部分を徹底的に描き上げたのだ。

順々に放たれる刺客に対し、持てる力全てを駆使し、彼女は進化し続ける。そしてその進化の果てには、世界の真理が待っていた。その過程一つ一つが非常に熱く、全てを賭して戦う姿に我々は学ばなければならない。本気の戦いほど人を進化させ、新たなステージへ昇華させるということを。その時の感動と言えば、例えようのない熱い思いが胸のうちから溢れて来るのだ。本書を読めば必ず誰かに勧めたくなる。冲方丁先生の描く「マルドゥック・スクランブル」はそういう作品だ。

悲しみにとことん寄り添う

本書では特に悲しみに力を込めて描かれていたように感じました。バロットの凄惨な過去ももちろん、敵であるシェル自身の抱く悲痛、かつて相棒だったウフコックとボイルドの哀しい過去。それぞれ立場が違えど、生きることに絶望する程の経験をしてきたという部分では共通してます。そんな彼女たちの悲しみどれをとっても、感情移入してしまい誰が悪なのか判別がつかなくなる時がありました。これは描写に問題があるなどではなく、どこまでも理不尽で欺瞞に満ちたこの世界を、忠実に再現したからこそこのような結果になったのだと私は思います。

現実世界で赤の他人の悲しみの量を推し量るのは大変難しいことですよね。その悲しみの背景を知らなければ、慮ることさえ不可能です。その点において本書では主要人物の過去や心情が丁寧且つ繊細に描かれていました。だからこそどの登場人物にも感情移入することができ、より一層本書を楽しむことが出来たのだと思います。

最後に

絶望から再生への旅路を描いたサイバーパンクの金字塔。私は本書をこのように称し紹介するだろう。バロットの成長に連れ物語は飛躍的に面白くなる。それに伴い読者である私たちの集中力も研ぎ澄まされ、読後は非常にいい疲れが頭と体に残ります。正義とは仲間とは何より生きることについて本書は私たちに問うてきます。自分なりの答えを導き出しましょう。




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