【感想】中田永一「百瀬、こっちを向いて。」初恋の味をもう一度・・・




こんばんは。朝木です。今回は中田永一先生の

「百瀬、こっちを向いて。」

読了いたしました。

あらすじ

「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは――。しかしその裏には、僕にとって残酷過ぎる仕掛けがあった。「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。

裏表紙より抜粋

感想

どの物語も総じて切ないものでした。登場人物である彼等とは年代も全く異なりますが、過去の自分を思い返す機会も多く、懐かしい気持ちにもなれました。初めて恋心を抱いた時というのは、何だか心の奥がモヤモヤして、尚且つその気持ちの正体がわからず、何もできず路頭に迷っていた覚えがあります。好きな子を前にすると意識しすぎて、空回りして、赤面して、たくさん失敗を繰り返して。今となっては良き思い出です。それでは感想を短篇集ごとに紹介してまいります。

百瀬、こっちを向いて。

普通じゃない恋愛と言うのでしょうね。事情があり付き合うフリを始めたものの、本当に恋に落ちてしまう。実際にそんなことがあるのかよっ!と突っ込みを入れたくなりますが、これはこれで切なすぎます、胸を痛めました。

そして何よりこの物語で驚いたのがほおずきの花言葉と、その意味を知って彼にプレゼントした神林先輩。彼女たちの中で一番演技が達者だったのは、神林先輩に違いない。まさかあれが伏線になっていようとは・・・。女の勘は鋭いと言うか、彼女には絶対的な自信があったのでしょう。容姿や内面はもちろん、自分を選ばなければならない理由を知っていた。私には受け入れ難い恋愛でした。少し残酷な愛のカタチ、しかしその隅で優しく灯る蝋燭のような百瀬たちの恋模様には、非常に和やかな気持ちになったことを覚えています。

なみうちぎわ

平成版浦島太郎とでも例えようか。でも本家とは少し違いましたね。今回はずっと待ち続けてくれていた人たちがいました。家族はもちろん、友達であったりそれ以上の関係の人であったりと。そして彼の抱く罪意識と良心の呵責、恋との狭間に揺れるこの想いに、彼ははっきりと自分の中で区別していました。純粋な恋心を目の当たりにすると、私も青春時代を思い出します。失敗を繰り返しながらも、その時の最善を全力で尽くしている姿は逞しいものでした。

『愛とは状態のことで、恋とは状態が変化するときに放出される熱なのではないか。』面白い考え方です。自身の中に気持ちをこういった形で落とし込むことで、少しは冷静に判断することができるのかもしれません。

キャベツ畑に彼の声

生徒と教師の恋愛。これこそ小説の世界だけだと思っていたのですが、存外身近にあるものですね。知らないだけで水面下で密かに進行していたり・・・。

伝えなければならない衝動が抑え切れなくなる時が私にもありました。それはコップに溜めた水が限界を超え溢れ出すように、好きという気持ちがとめどなく溢れ出してくる。きっと伝えない方が関係性に変化がなく、幸せなのかもしれない。もしかするとより一層幸せになれるかもしれないし、終わりを迎えるかもしれない。そういった恐怖と隣り合わせなのですから慎重になるのは当然です。自分の思いを伝えるという事が簡単そうに見えて一番難しいものなのです。

小梅が通る

持つべき者には持つべき者の苦労があり、それを羨む者には嫉妬の心が生まれるもの。その羨望の果てに努力して追いつくのか、相手を蹴落として自分と同等、あるいはそれ以下に貶めようとするのか。ここで人としての大きさが試されますね。

柚木の手に入れた今の友達。あの子達は本当にいい子達でした。彼女には彼女なりの理由があるのだから、話してくれる時がくるまで触れないでおこうと。そして知った後でも友達であることに変わりはないと言ってくれました。だからこそあの場面で柚木は過去のトラウマを振り払うことができたのでしょう。彼女達の友情は目が眩むほどに眩しいものでした。

最後に

どの恋愛も特殊な恋の始まりのようにも思えました。それはどこか特別で、より儚いものに思え甘酸っぱい青春時代独特の良さを思い出しました。そしてどの物語も今後への淡い期待を匂わせてくれる、非常に心地良い閉幕を迎えます。彼等の未来を想像することも本書の楽しみ方の一つですね。皆さんも青春の甘酸っぱさをもう一度味わってみませんか?




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