【感想】誉田哲也「幸せの条件」農業は人間社会の基本である!




こんばんは。朝木です。誉田哲也先生の

「幸せの条件」

読了いたしました。

あらすじ

恋も仕事も中途半端、片山製作所勤務の「役立たずOL」梢恵に、ある日まさかの社命が下された。単身長野に赴き、新燃料・バイオエタノール用のコメを作れる農家を探してこい。行く先々で断られ、なりゆきで農業見習いを始めた24歳に勝算はあるのか!?働くことと、生きることの意味を問う、『ジウ』シリーズ著書による新境地。

裏表紙より抜粋

感想

風景描写

冒頭部分から理系分野のお話で、文系出身者はもしかするとちんぷんかんぷんかもしれないです。私がそうでした。そして序章から登場人物の個性や誉田哲也さんの描く世界観にどんどん引き込まれました。そして何と言っても本書は風景描写が生き生きとしています。登場する地域の風景であったり、雰囲気が鮮明かつストレートに伝わってきます。その場で読んでいるかように心地がいい。人物も田舎独特の人柄がありのまま描かれていました。ある人はつっけんどんで無愛想で、またある人は返って引くぐらい優しくてお人好しで。どちらも両極端なので笑っちゃいます。ここで一つ見えたのが社長という肩書を持った人の特徴。枠にとらわれず臨機応変にかつ大胆に。本書に登場する社長たちを見ていてそのように感じました。とても愉快で、どこまでも引っ張って行ってもらえそうな信頼感があったような気がします。

食物

そして東日本大震災でのお話。わたしがこの記事を書いている時にはもう五年が経っています。正直に言います、過去の出来事だと思っていました。しかし本書を読んで思い出しました。当時の被害状況や報道されていた映像。そして被災された方達は今もなお戦っていること。農地はもちろん、家も仕事場も何もかもが流され荒れ果てて。小説で読むとそれこそ被害状況がひしひしと伝わってきて、改めて胸の奥を深くえぐられました。それでも被災された方たちは諦めなかった。一人一人が自分に今できることと向き合い行動し助け合った。直接的な被害を免れた人たちは寄付をしたりボランティアに向かったりと日本中が一丸となったこと。私たちはこの出来事を忘れてはなりません。そして人の原動力となる食物。これを絶やしてはならないのだと。

農業

農業従事者の業務はどこもハードです。しかしきっとみんな好きでやっている、だからこそ何十年も継続することができるのでしょう。農業の知識さえあればリストラされても生きていける。それに加えやり方一つで利益を産むことだって可能です。もちろん簡単にはいかないですが。

茂樹が日本の現在の食料自給率について説いている部分は非常に説得力がありました。私自身これを読む限り海外からの食料の輸入が途絶えたとこで、日本が死滅してしまうなんて現実は起こらないと感じました。それこそ食料の値段は高騰してしまいますが、食料自給率という数字は現在とは全く異なった数字で私たちの前に現れるでしょう。これについては少し憧れを覚えますね。日本の農家さんたちが救われると感じました。

農業は立派なビジネスです。買ってくれる人がいてこそ農家は作り続けることができるのだ。無農薬で作った米はそれだけで一つの魅力を持っているでしょう。しかしそれが売れない場合は諦めることも大切なのです。ビジネスの感覚が大切なのだと述べられいました。

そして原発による放射能の被害が人体に与える影響だけではないということ。原発と農家との密接なつながりに改めて気づかされました。あと三百メートルずれていればコメを作ることができた。この言葉が私の胸に今もなお、深く突き刺さっています。そして被災地の農家の方が原発で発電した電気を使っていないということ。都心に電気を送るため使用されていた原発。なぜ農家の方がその電気を使っていないのに、農家の方が苦しまなければならないのか。本書を読むまでこの事実に気づきもしませんでした。

「あぐもぐ」には損得ではなく利害を超えた何か大切な、優先されるべき価値観があります。そこに人と人との温かな繋がりが肌で感じられ自然と人が寄ってくる、そんな仕組みが出来上がっていると感じました。梢恵も「あぐもぐ」での生活を通じて見違えるほど成長しました。あれだけ自分から進んで物事をする事を拒否していたのに、今では積極的に農業に関わる事をしたいと。環境が人を成長させたのでしょう。それは人との繋がりを良くしようとか、自分の勉強のためにとか、理由は多々ありますが、畢竟、震災を経て人のために何かしたいという思いが心の奥底に芽生えたのでしょう。私はそのように感じました。

必要とされているかどうかではない、自分が真の意味で必要としているかどうか、それが大事なんだ。人生の教訓とも言える一言。社長と話す梢恵の姿にここでも成長が垣間見れました。もっと根本的な理由で農業と向き合うと梢恵は決意したようです。生きていくことに新しい価値観を見出した梢枝は立派に成長したと言えるでしょう。

他にも「あぐもぐ」には人生において大切にすべき価値観が詰まっていると感じました。彼女すら養えない男が子供をこれから養っていくにあたって不安になるのは当然。しかし逃げていては何も始まらない。ヘソを曲げてフラフラしていても仕方ないのだ。覚悟を決めて一生懸命働くこと。これは農業だけに言えることではないでしょう。人が生きていく上で大切な価値観。行人が知郎を叱咤するシーンは目頭が熱くなりました。「あぐもぐ」社員も家族の一員と考える人たちの集まり。人が色々な意味で成長できる職場ってこういう雰囲気なんだろうなと思ったり。

最後に

農業の勉強になる小説です。除雪から育苗、耕起、田植えに稲刈り、挙げるときりがありません。農業の知識がない方でも安心してください。基本事項や言葉の意味は登場人物が丁寧に解説してくれます。それぞれの作業にどういった意味があるのか、またどのように行うのか。自給自足でないのであれば、やはりビジネスの視点が大切になってくるようです。

そして人の紡ぐドラマが本書にはありました。感動する。ただこの一言に尽きます。読後は思わずため息が漏れ、いっきに肩の力が抜けました。思っていた以上に集中していたみたいです。読み物としても十分すぎるほど面白い。参考文献の量にも驚きました。緻密に調査がなされているのだと。

命の凝縮された味。私も新米食べてみたいです。

農業は人間社会の基本。私自身目指しているだけあってとても背中を押され勇気が出ました。農業に興味がある方もない方も絶対に読むべき一冊です。人生における大切な価値観や考え方が本書にはあります。是非一度手に取って読んでみてください。




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